美味しい赤身肉は塩だけで食べてもとても美味しいです。

しかし、近年、塩は高血圧に悪影響を与えるとか、成人病になりやすいと言われ、飲食店でも塩味が薄いまたは全く塩を感じないお店が増えたように感じています。

塩味が薄いお店が増えるのはいいのですが、それはあくまでも、上記で述べた血圧や食生活が乱れている人を対象にしている“言葉”なのではないでしょうか。

当店にご来店いただき“和牛赤身肉”のステーキをご注文された方、皆様が驚きます。

噛み応えを残し、ジューシーに焼き上げたお肉の断面には、塩がたっぷりと振りかけているからです。

実は、美味しいお肉を「食べたい」と思うならば、質の良い塩を使うことはもちろんですが、肉を切っ断面に塩をしないと、何を食べても同じようなパサパサのお肉に感じてしまいます。

それでも、初めてご来店のお客様は当店の「塩の使い方」に驚いているようです。

このページでは「なぜお肉に塩が必要なのか」を序盤説明するとともに「赤身肉に振り掛ける塩の量で料理人の自信度が分かる」少しマニアックな話を書いていきます。

塩はお金と同じだった

今でこそ、日本中どこでも「塩」を買うことができると思います。しかし、江戸時代の日本はというと“塩”はとても貴重なもので、藩の財政を支えるくらい大事なものでした。

 

元々、我が国はお米を貨幣に見立てて世界では類を見ないくらい珍しい国でしたが、塩に関しても同じようにお金と同等の価値で取引をしていたようです。

 

これは、日本だけに限られたことではなく、世界的に見ても“塩”はとても高価なもので、塩に対して重い税金をかけていた国もあります。

 

それだけ、人類にとって塩はかけがいのない栄養のひとつだったといえると思います。

あなたの聞いたことがあるかもしれませんが、砂漠や海で遭難しても水と塩があれば、すぐには死ぬことはないと言われるくらい、塩は人間にとってとても大事なものなのです。

 

その貴重な塩を近年控える傾向にあります。冒頭でも説明した通り健康を意識しての「減塩」です。

 

 

しかし、料理を美味しくするためや、保存を目的にするための塩は必要であり、特に美味しい料理を出すお店にとっては、塩を産地ごとで使い分けているくらい味を引き出す生命線でもあります。

塩をしない肉は食べれたものではない


試しにスーパーで買ってきた、厚めの肉に塩を振らずに焼いてみてください。

 

きっと、味がしないだけではなく、きれいな焼き色も付かなければ、肉も引き締まっていないので、パサパサした焼き上がりとなってしまうと思います。

 

実は、肉を焼く時におこなう「振り塩」は肉を美味しくする上で、とても大事な作業なのです。

 

肉の表面に満遍なく振り掛けられた塩は、浸透圧の関係で薄っすらと赤身肉の表面に味が付いていきます。

 

しかし、塩を振る作業を適当に行うか、全く塩を振らないで赤身肉を焼こうとすると、塩味も付いていなだけではなく、美味しく焼き上げるために必要な「肉の潤い」も無い状態で焼くことになります。

 

つまり焼いている途中から、パサパサの肉となっていきます。

 

この事実を知らずに肉を焼き上げてしまうと、何か物足りなく味気ない仕上がりのお肉料理になってしまうのです。

 

ちなみに当店の赤身肉を焼く時には、「ちょっと多すぎるんじゃない!?」というほど塩、そして胡椒を振りかけて焼きます。

なぜ、これでもかというくらい塩を振るのかと説明をしますと…

 

塩をしてしばらく置いてから、焼くことができる時間があればいいのですが、オーダーが入ってから一人前ずつ焼き上げるので、塩味を肉に薄っすらとつける時間がありません。

 

そこで、当店独自で行っていることが、塩を多めに振りかけて焼き上げる方法なのです。

 

この方法の良いところは、焼いている側からフライパンの中の油の中で、振りかけた塩が適度に落ちていくところにあります。

もし、フライパンの中で落ちていく塩の量を計算をせず、赤身肉を焼き上げようとすると…

 

前述した全く塩をしない赤身肉、もしくはメチャクチャ薄味で、塩や肉の旨みが出ていない味付けになってしまいます。

 

オーブンで焼き上げる時も塩味は落ちていく

プロの間でも意外に知られていないのが、オーブンで焼き上げている最中も塩味が落ちていることです。

 

オーブンの中はいわば高温です。肉を高温のオーブンの中に入れると、肉の中で肉汁が対流を起こしながら肉に火が通っていきます。

 

その時、肉の内部にあるであろう肉汁や、肉の周りについている油がそのまま肉の周りに高温のオーブンの中で肉にくっ付いているのか?と云うとそうではありません。

 

高温のオーブンの中なので、肉を焼いた油もオーブンの中では、焼いた時に使用した油も、中で対流している肉汁も少しだけですが下に落ちていきます。

 

その時に、肉の表面についていたであろう“塩”も落ちていくのです。

 

さらにまだ塩味が薄くなる原因があります。

オーブンから出して肉を休ませる

高温のオーブンで「赤身肉」を焼き上げた後は、肉の中で肉汁がまだ対流しています。

それを少し休ませなければ、中の肉汁が出てしまうので「良い焼き上がり」にはなりません。

 

その時、肉の内部にはどのようなことが起こっているのでしょうか?

 

オーブンの中では、内部の肉汁が中心に向かって肉に火を通そうとしていたのが、外に出すとオーブンの中よりも寒いので、中の肉汁が外に出ようとするのです。

 

この時。肉についてるであろう塩(塩味)は、また外に出されてしまいます。

 

こうして“シットリジューシー”に焼き上げた赤身肉は、焼く時にあれだけ多くの振り塩をしたにも関わらず、殆ど塩味が抜けてしまうのです。

長くなりましたが、そのようなことがあり、当店では焼きあがった赤身肉の断面に、焼き上げた時に失った塩味(旨味)を補う(引き出す)ために、旨味の濃い塩を振っているのです。

 

塩味は料理人の自信の表れ

ここまでお読みになれば、塩がいかに大事であり、当店が細心の注意を払っているのかが理解できたと思います。

 

 

なぜ、ここまで塩に対して注意をしているのかと言うと、「味に自信がある」のは一度、和牛赤身肉をある程度の量を食べてみれば分かりますが、それよりも、素材の持つ“旨み”を引き出したいからです。

 

ちなみに、肉の塩味が薄いお店は素材の力が弱いので、塩味も必然的に弱くなります。特に焼き上げてからの塩と焼き上げる前の塩では、同じ塩でも役割が大きく異なるので、肉本来の味を作り手が理解していないと上手に焼き上げれないのです。

 

当店では赤身肉を焼く時は、細かいサラサラの塩を使用しています。理由は肉を焼く前に細かい粒子の塩の方が、短時間で薄っすらと塩味がつけれます。

 

そして焼きあがってから使う塩ですが、すでにご来店になられた方はご存知だとは思いますが、当店ではフランス、ブルターニュ地方で作られる、塩造りの始めにできる結晶、塩の花(フルールドセル)と呼ばれる最高級の海塩を使用しています。

これら2種類の塩を使い分けることにより、和牛の赤身肉の美味しさを引き出しているのです。